海で遭難した人はたいてい飲み水で苦労しています。
生還した人の手記でそれですから、生還しなかった人は…容易に想像できます。
外洋をゆくヨットなら非常時用の水は豊富に積んでいるものですが、遭難するような荒天の時は、脱出用のライフラフト(救命いかだ)を展開するのが精いっぱいで、船内の飲用水を持ち出す余裕などないでしょう。
幸いライフラフトの中にもいくらかの水・食料はセットされているようですが、量は限られます。
過去にも紹介した「たったひとりの生還 「たか号」漂流 27日間の闘い」によると、やはり嵐の中でライフラフトを展開する際に、ほとんどすべての水・食料が流されてしましました。6人が乗り込んだラフトに水はわずか。
1人また1人と絶命していく中で、ただひとり生還を果たした佐野三治氏の著書は、海に出る人ならぜひ読んでほしい貴重な記録だと思っています。
ここでひとつ、先日、私が聞いた話を披露します。
これはヨットで大洋を渡るものではなく、ウインドサーフィンで遭難し死にかけたというご本人からの話です。
ウインドサーフィンですから、ちょっとその辺で…と思って遊んでいた時のことです。
場所は逗子~葉山の間、車で行けば信号待ちを入れても10分くらいの距離です。
そのかたは初心者ではありませんが、急に強くなった風で波も高くなり、ボードの上に立つことすらままらない状況になりました。
海に浸かりながら、セイルを少し持ち上げて風で岸の方に向かい、結局は自力で逗子に戻ったとのこと。ところが ”こうやって人は海で死ぬのだなぁ” と思ったのだそうです。
ちょっと想像してみてください。
ボードの上に立てないくらいの風と波。自分の体のほどんどは海の中。サーフボードに掴まっています。何度かセイルに風を入れて立とうと試みますが、すぐ海に落ちます。息はあがるし、もう体力的にもしんどくなってきました。
そんな状況ですので、塩辛い海水を何度も飲んでしまいます。もちろん手元に飲用水などありません。心拍数も上がり、口を開けて呼吸するものだから、もう唾液すら出ません。
するとどうなるかというと、喉がくっついて息ができなくなるのだそうです。
ライフジャケットを着ていれば、無線や電話を持っていれば大丈夫か?いいえ、電話するにも声が出なかったらと考えたことありますか?
私が乗っているカヤックでも、同じようなことが起こるかも知れません。(ウインドサーフィンに比べると遥かに安全ですが)予備の飲用水の大切さを知りました。
喉がくっついて息ができなくなる……想像しただけで苦しくなります。今日、自転車を乗っていて息が切れてしまい、ふと唾をのむと喉が渇ききっている状態でした。ほんの少~しだけ、喉がくっついて息ができなくなる感覚がわかりました。
どうか皆さまも予備の水ボトル、お忘れにならないように。
前出の「たか号」の手記によると、ライフラフトの中で、救助されたら赤いの…飲もうな、とお互い励まし合うシーンがあります。赤いの、とはコカコーラのことです。水さえあればきっと赤いの…今でも思う存分飲めたでしょう。
正しく恐れて正しく対策する!これに尽きます。海の楽しみは無限に広がっています。
これは名著です!
佐野さんにお会いしたい!