つくりだされる海難事故 ~ミニボートの転覆~

2019年11月30日、東京湾の出口に近い野比(のび)沖で釣り客向けに貸し出されている小型ボートが転覆し、40代男性2人が遭難。一人は無事救助され、もう一人は翌朝少し離れた岸壁で亡くなった状態で発見されました。

同じ船で遭難し、救助された人は転覆した船にとどまり、亡くなった人は救助を求めて岸に向け泳いだ。なぜこのような結果になってしまったのでしょう。

情報がこれだけだと答えは・・・泳いだことで体温が奪われ、それが致命的になったから・・・でしょうが、私はもっと元にあるのではないかと考えています。

 

断片的にいうと泳いだのは失敗でした。貸ボートの店主に「これから戻る」と連絡をしていたのだからなおさらです。救助を待つべきでした。その電話から発見されるまで約70分。

ただ、その立場に置かれたらどうでしょう、あなたはじっと待てるでしょうか?

報道によると転覆したのは岸から200mのところです。たった200m。ライフジャケットも着ています。海から見る岸は実際より驚くほど近く見えます。こんなに近いなら軽く泳げると思うのではないでしょうか?

転覆している危機において人は正常な判断が下せなくなるものです。何かしないと北風に押されてさらに沖に流される、このままじっとしていたら体温が下がって死ぬ、同じ死ぬなら岸が近い今のうちに救助を呼びに岸へ・・・、と思ったかもしれません。

この事故から学ぶことは

 1、こういう状況にならないようにするための努力

 2、不幸にもこういう状況になったときの対処

だと思います。

1は書けば星の数ほどあります。ただしどれほど対策をしても事故は起きてしまうもの。

2については何度も書いていますが、携帯電話を防水パックに入れて携帯することと、無線機や笛や発煙筒などのシグナルを用意することに尽きると思います。陸にいる人に緊急事態を知らせることができたら生存率はぐんと高まるはずです。

ただ、今回の事故を受けて私が言いたいのは違います。

ボートが小さくて危な過ぎる ということです。

エンジン付きのボートを扱うのに免許が必要なのは日本人なら“当たり前”でしょうけれど世界的には珍しいことです。批判は以前からありましたが、そんな中、国は免許がなくても乗れる小さなサイズを決めました。平成15年11月からです。

くわしくはこちらをご覧ください。必読と思われるパンフレットもあります。

大体のことろを言うと、長さ3mの船に2馬力のエンジンをつけている分には免許はいりません、船検も必要ありません。

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さてこの3m、お店や家で見ると大きいのですが、海に持っていくとなんと小さいことか。こんな小さな船に2人なんか乗ったらだめですよ、と言いたくなります。

そして2馬力のエンジン。風が強くなっても大丈夫なのでしょうか。

これくらいの低馬力のエンジンはエンジン上部にある紐を勢いよく引っ張って始動させます。

一発でエンジンがかかればいいのですが、丁寧な整備がされていない限りそういかないことが多いのです。エンジンが始動しないと焦ります。チョークをいじってさらに点火プラグが燃料で濡れてかからなくなります。そういう作業をしているとどうしても船の後ろが沈みがちになり、ちょっとした波でも水が入ってきて一気に転覆してしまうのです。

 

舟艇工業会によると、免許不要のいわゆるミニボートの事故は年々増加傾向。それも「転覆」が多いのが特徴だと。当たり前です。このぶんだとそのうち免許不要じゃなくなりますね。

私は逆に、船の免許制度なんかさっさとやめて実技講習を充実させたらと思うのですが。

こんな危ない小さいサイズのボートを「免許不要」とハードルを下げて誘うものだから、いくら立派なパンフレットをつくっても遭難事故と犠牲者が増えるのです。いかにもお役所の仕事らしく、むしろ(国の政策に)つくりだされた海難だと私は思うのです。